2019年6月10日
MIDI 2.0の審議状況について
一般社団法人音楽電子事業協会(AMEI)とThe MIDI Manufacturers Association(MMA/日本以外の地域でMIDI規格を管理運営する団体)は、2019年1月19日に
「MIDI 2.0」の開発・規格化および実装作業を開始したとの発表を行いました。その後、MMAからはThe MIDI Associationサイト(TMA)にて本年5月に
MIDI 2.0の概要が発表されています。ここでは、現時点の審議状況について公開します。
MIDI 2.0という名称について
現在MIDI 2.0を審議しておりますが、先に発表したMIDI 2.0は、新しいプロトコル(
MIDI 2.0プロトコル)だけを表している言葉ではありません。MIDI 2.0は、これまでのMIDI 1.0規格や昨年追加されたMIDI機能拡張の仕組み(MIDI-CI)により、MIDIで接続された機器同士が相互運用することを可能とすることで、さらなる未来の発展のための礎となる環境を意味しています。1983年に発表されたMIDI 1.0は、その後時代に合わせて拡張、新機能の追加が成されてきました。こうしたMIDIの進化を含め、MIDI 1.0の規格はMIDI 2.0の一部として有効に機能します。
MIDI 2.0では、これまで以上にMIDIの利用者にとって利便性を向上させると共に、これに含まれるMIDI 2.0プロトコルは高精度な演奏データを扱うことが可能となり、さらに表現力を向上させる為のデータ構造を持ちます。またタイムスタンプによる時間精度の向上を実現します。繰り返しになりますが、これまでのMIDI機器が使えなくなるわけではありません。現在、MIDIを扱うことのできる機器は、楽器だけに留まらずコンピューターやスマーフォフォン、照明制御、DJ機器、カラオケなどにも及び、数百万の機器が世の中にあります。MIDI 2.0はこれらの機器と、新しく登場するであろう機器との相互運用を前提とし、MIDI 2.0プロトコルを含む機能拡張により、これまで実現し得なかった新たな価値を提供していきます。
MIDI機能拡張の仕組み(MIDI-CI)
MIDI 2.0は接続された機器間でネゴシエーションを行う、MIDI機能拡張の仕組み(MIDI-CI)を持っています。MIDI-CIは接続された機器間で双方向通信を行い、それぞれの機器がサポートしている機能拡張の情報を交換します。双方の機器が、相手の機器がサポートしている機能拡張を認識します。その上で、双方の機器が機能拡張を使うことに合意した場合、はじめて機能拡張が開始されます。もし、機器がいずれかの機能拡張に対応していなければ、後方互換性により、それぞれの機能拡張を使用しません。後方互換性とは、これまでのMIDI機器がMIDI 2.0の基で価値を発揮することを意味しています。
MIDI-CIは、
- プロファイル設定
- プロパティ情報の取得/設定
- プロトコル・ネゴシエーション
の3つの種類の機能拡張の照会を行います。これらの機能拡張を3つの「P」と呼びます
機能拡張 −3つの「P」ー
- プロファイル設定
プロファイルは電子楽器を演奏、設定する際の利便性を向上させます。電子楽器はいろいろな音色を設定することができます。ピアノ、エレクトリック・ピアノ、ドローバー・オルガン、ドラムセット、アナログ・シンセサイザーなど、それぞれの音色はその種類ごとに奏法、編集したいパラメータは似かよったものとなります。しかし、これまでは各社で異なった手続きで演奏、編集しなければならず、MIDIを扱うことに慣れていなければ難しいものでした。そこで楽器の種類ごとにプロファイルを定義することで共通の操作性を提供します。楽器の種類ごとのプロファイルを選択するだけで、(音色は異なりますが)操作は共通となりMIDIを扱うことの慣れは必要では無くなります。電子楽器の性能を存分に発揮できるものになります。
例えば、ピアノ音源を制御しようとする時、各社のピアノ音源はノートオン、ノートオフについては同じように(音色は違っていますが)音が鳴ります。強く弾くときは音量が大きく、弱く弾くときの音量は小さくなります。打鍵する強さ(ベロシティ)とその音色、音量の関係をベロシティ・レスポンスと言い、変化の割合をベロシティ・レスポンス・カーブと言います。ユーザは自身の演奏に合わせて、ベロシティ・レスポンス・カーブを編集します。しかし、編集方法は各社で異なっていますのでやり方を調べなければなりません。
また、ピアノの音色を編集する中で、グランドピアノの屋根をある角度で開閉をしたい時、各社のコントロールチェンジの番号は異なっているでしょう。音楽制作者は音源(ソフトシンセでも同じです)を変更する場合、やり方を調べなければなりません。プロファイルはこの設定の方法をピアノ・プロファイルとして定義します。ピアノ・プロファイルを選択することで、演奏、編集の方法は同じになり、奏者、制作者はいちいち調べなくても楽器を編集することができます。
さらにプロファイルは、楽器の種類だけではなくMIDIが応用されている機器、DAWコントローラや照明コントローラや産業用機械などの音楽以外の用途も開発が予定されています。
- プロパティ情報の取得/設定
プロパティ情報の取得/設定の機能は、コンピューターから電子楽器(機器)の内部情報(プロパティ)を取得/設定します。例えば楽器の持っている音色名、コントローラの名前やその値を取得することができます。また、楽器のパラメータの値を設定することもできます。楽器がコンピューターに接続されているとします。コンピューターからMIDI-CIを使って、楽器に対して「プロパティを送れ」というコマンドを送ります。楽器はそのコマンドに応答し、JSON(JavaScript Object Notation)形式でプロパティをコンピューターに返します。コンピューターでは送られて来たプロパティを、表示、編集し楽器に設定することができます。
これまでは各社独自のシステム・エクスクルーシブ・メッセージでやりとりをしていました。そのため、アプリケーションの開発者は各社ごとの仕様を調べて実装する必要がありました。MIDI 2.0では、MIDI-CIを使うことで、各社のどんな楽器でも同じメッセージでやりとりすることができます。さらに、JSONは可読形式(人が読める形式)ですので、広く応用が可能となります。これにより、アプリケーションの開発者はMIDI-CIの手続きでアプリケーションを開発することで、すべての楽器に対応することができるようになります。
- プロトコル・ネゴシエーション
AMEIとMMAはMIDI 2.0での新しいプロトコル(MIDI 2.0プロトコル)を開発しています。プロトコル・ネゴシエーションは接続された機器がこれまでのMIDI 1.0のプロトコルとMIDI 2.0プロトコルのどちらを使用するかを選択できます。
MIDI 1.0プロトコルは8ビット、3バイトを基本としていました。これは、80年代のCPUやシリアル通信で扱うには必要十分であったと考えられます。しかし、今日のCPUの性能向上、通信路の高速化により、大きなデータを扱う環境が整っています。大きなデータを扱うことで、精緻な制御が可能となります。MIDI 2.0プロトコルでは、高精度な演奏データを扱うことが可能となり、表現力を向上させる為のデータ構造を持ちます。またタイムスタンプによる時間精度の向上を実現します。
MIDI-CIのプロトコル・ネゴシエーションは、接続された機器がMIDI 2.0プロトコルに対応しているのかを問い合わせ、対応していることがわかって初めてMIDI 2.0プロトコルの通信を開始します。もし、機器が対応していなければ、これまで通りMIDI 1.0プロトコルでの通信を行います。プロトコル・ネゴシエーションにより、いままでの機器と新しい機器の相互運用が可能となります。
MIDI 2.0プロトコルでは、ユニバーサルMIDIパケット(Universal MIDI Packet)という形式のデータフォーマットを開発しています。ユニバーサルMIDIパケットは「楽器の表現力の向上」を目標に掲げ、具体的には次のような開発を進めています。
- チャンネル・ボイス・メッセージのデータ解像度の拡張
- チャンネル・ボイス・メッセージに表現力向上のための新しい情報を追加
- ノートを精緻にコントロールするための新しいチャンネル・メッセージの追加
- RPN,NRPNといった複合メッセージを集約
- 大容量のデータ転送のためのシステム・エクスクルーシブ・フォーマットの拡張
- MIDI 1.0機能を包含
- 時間精度向上のためのタイムスタンプの導入
ユニバーサルMIDIパケットは現在開発中で、詳細発表にはしばらく時間をいただきたいと思います。なお、伝送路(トランスポート)に関しては、MIDI 2.0では定義しません。現在、USB接続による通信が一般的ですので、これを使うことから開発を進めています。
--- ユニバーサルMIDIパケット(Universal MIDI Packet)形式(開発中) ---
MIDI 2.0の試作開発
MIDI 2.0の試作開発にはAbleton/Cycling‘74、Art+Logic、Bome Software、Google、imitone、Native Instruments、ROLI、Steinberg、TouchKeys、クリムゾンテクノロジー株式会社、株式会社コルグ、ローランド株式会社、ヤマハ株式会社、株式会社ズーム等、日本・アメリカをはじめ各国の電子楽器メーカー・ソフトウェアベンダーが参加しています。
これまでのメーカー間の接続試験により
- プロファイル設定により、異なるメーカーのシンセサイザーが、それぞれのパネル操作で相互にコントロールすることができる。
- 一つのオルガン・コントロール・ソフトでコンピューターから、異なるメーカーのオルガン製品(オルガン音色)を共通のメッセージで音色編集することができる。
- プロパティ情報の取得/設定により、異なるメーカーの音色リストを同じ手続きで取得し、音色名で音色選択を行うことができる。
- 新しいプロトコルの高精度なメッセージにより、アタック・エンベロープの精緻な変化や、フィルターのカットオフ周波数を細く編集することで滑らかな音色変化を得ることができる。
といった効果を確認することができました。
次の動画は、昨年の楽器フェアにて「Future MIDI Expansion の可能性について」と題して開催されたAMEIセミナーの模様です。なを、Future MIDI Expansionは検討段階でのMIDI2.0の呼称です。メーカー間の接続試験のデモンストレーションを行っています。
今後、MIDI 2.0プロトコルを含む機能拡張対応機器の開発及び、AMEI/MMA会員企業向けのMIDI 2.0準拠を表すロゴデザインの制作も行う予定です。このMIDIのメジャー・アップデートは、MIDI 1.0対応機器との接続互換性を維持した上で高度な接続性によって様々な分野におけるMIDIの新たな世界を築くべく、規格提案・開発を行ってまいります。
一般社団法人音楽電子事業協会(AMEI)について
一般社団法人音楽電子事業協会(AMEI)は、音楽電子事業に関する生産、流通、商品などの調査研究、情報の収集及び提供、規格の立案及び標準化の推進などを行うことにより、音楽電子事業及び関連産業の健全な振興を図ることを目的とする団体です。AMEIでは、会員として参加・協力頂ける団体・企業を募集しております。お問合わせはAMEI事務局までお問い合わせ下さい。
お問合せ
一般社団法人音楽電子事業協会(AMEI)事務局
【電話:03-5226-8550/FAX:03-5226-8549/e-mail:amei_info@amei.or.jp】